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東京高等裁判所 昭和38年(ラ)410号 決定 1963年9月17日

再抗告人 佐小田登

主文

本件再抗告を棄却する。

再抗告費用は再抗告人の負担とする。

理由

再抗告人は、「原決定を取り消す。本件を東京簡易裁判所に移送する」との裁判を求め、再抗告の理由として別紙再抗告理由書記載のとおり主張した。

再抗告理由第一点及び第二点について、

本件記録によれば、再抗告人は原告となり、神奈川相模原市に住所を有する渋谷芳明を被告として、その管轄裁判所である横浜簡易裁判所に造作買取代金請求の訴を提起したものであることが認められる。再抗告人が本件債権について支払命令を申し立てた当時から東京都内府中刑務所に在監中のものであることは記録上明かであるが、再抗告人自身が自由に右事件の口頭弁論期日に出頭することができなくとも、再抗告人が在監中であるとの一事をもつて、右事件をその所在地の裁判所に移送しなければ、訴訟につき著しい損害又は遅滞を生ずるものということができない。そればかりではなく、再抗告人は本件においては、弁護士又は裁判所の許可を得てその他の者を代理人に選任して、訴訟を進行することができるのであるから、この点からしても右結論は是認せられる。従て、再抗告人のなした移送の申立を却下した裁判を相当であるとした原裁判所の判断は相当であつて、なにも憲法第三十二条、民事訴訟法第三十一条に違反するものではないから、再抗告人の主張はいずれも理由がない。

よつて、本件再抗告は理由がないから、これを棄却することとし、再抗告の費用は再抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

別紙 再抗告理由書

第一点原決定の判断に影響をおよぼすこと明らかな採証法則の違反がある。

すなわち憲法第三二条に何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。

再抗告人が刑事被告人であるというが故にいずれの裁判所に出頭出来ないと、抗告裁判所は指摘して、理由なしとしているのは、刑事被告人であるということの、先入意識で、適正なる裁判を受ける権利を甚しく圧迫するもので、憲法第三二条違反である。

第二点再抗告人は、本件訴訟と時を同じくして提起した藤沢簡易裁判所(ハ)第一一号未払賃金請求事件の移送申立をなしたところ民事訴訟法第三一条第一項により再抗告人の申立とおり移送の決定をなし一昨日東京簡易裁判所にて、その、結審をみたのである。

これすなわち訴訟の理想である円滑迅速に処理されたのみならず、権利保護の使命が全うされたよき例である。

これと同じく明らかに移送を決定すべきに理由なしとして、棄却したるは、民事訴訟法第三一条第一項に違反することは明白である。

以上いずれの論点よりするも原決定は違法であり破棄さるべきものである。

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